ひがしっぽ動物病院

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コラム

犬の乳腺腫瘍

ダックスフンド

当院では病気や薬についてよく資料をお渡しします。製薬会社が作っているリーフレットはもちろん、自作プリントや飼い主さんとお話しながら書いたメモをお渡しすることもあります。そうするのは、治療を選んで頂いたり、これからの方針を決めていったりするときに、少しでも材料を提供したいからです。今の状態を少しでも多く、一緒に把握していただきたいからです。

「帰ったら家族になにも説明できませんでした。」
「ネットを調べたら色々出てきて。。。」

こんな飼い主さんの声を聞いているうちに今のスタンスになりました。

今回は、そんな資料のうち「犬の乳腺腫瘍」のプリントをそのまま紹介します。

乳腺腫瘍は犬の雌の腫瘍としては発生が一番多いです。一方でまだ不確定な部分もあります。資料の最後にもあるように、現時点での乳腺腫瘍についての一般論や現時点で報告のあるデータを元にまとめています。また、治療については多くの考え方があります。新しいものがでてくればアップデートしていますし、個々のわんちゃんによって状況は様々です。御家族やわんちゃんにとって、良い選択ができるよう、参考になれば幸いです。

犬の乳腺腫瘍について

乳腺腫瘍は乳腺が腫瘍化する病気です。乳腺は皮下脂肪の層にありますので触っていてしこりに気が付くことが多いです。小さいしこりは良性の場合が多く、手術で根治できますが、大きくなると悪性の場合がでてきますし、肺などに転移がみつかることもあります。

乳腺腫瘍は雌犬の腫瘍の中では最も発生が多いです。普段、診断や治療について飼い主様から聞かれることをまとめましたので、今後の選択の際の参考にしていただければ幸いです。

1.なぜ腫瘍ができたのですか?

乳腺腫瘍は女性ホルモンの影響を受けて腫瘍化することが考えられています。初回発情までに避妊手術をしていると、発症率は0.5%以下と非常に低くなります。
しかしながら、避妊手術をしていても腫瘍ができることはあります。まだはっきりとわかっていない部分もあります。

2.悪性ですか?良性ですか?

古くから、確率的に良性が50%、悪性が50%と言われています。さらに悪性のうちの半分くらいが転移・再発の可能性が高いものと言われています。つまり、75%が手術で根治可能、25%が手術だけでは根治が難しいと言えます。また、近年の悪性率の報告では、大型犬58%、小型犬25%というものがあります。

3.元気も食欲もありますが、乳腺腫瘍ですか?

乳腺腫瘍に特有の症状はありません。また、しこりを痛がることはあまりありません。ただし、大きくなってくると皮膚があかぎれのようにきれたり、化膿してしまったりすることがあります。炎症性乳がん(非常に悪性度の高い乳腺腫瘍)はしこりというよりも、乳腺が広範囲に固くなり、熱をもったり、後肢にむくみが起こったりします。

4.良性か悪性か調べられますか?

最終的な診断は手術で切除したしこりを病理検査に出すことで確定します。手術前だと、いろいろな情報から良/悪を推測することになります。

  • 大きさ…3cmを越えると悪性を疑います。5cmを越えるとさらに悪性の可能性が上がります。
  • 大きくなる速さ…悪性のものは早く大きくなる傾向があります。
    例えば1年以上2cmのままの腫瘍よりも、この1か月で2cm大きくなった腫瘍のほうが悪性を疑います。
  • 細胞診…細い針でしこりを刺して、細胞を顕微鏡で調べます。
    特徴的な細胞が出ていれば悪性と仮診断します。診断精度は専門医が検査して80%と言われています。
  • 避妊の有無…避妊手術済みの方が悪性腫瘍の可能性が高いと言われています。
  • 年齢…発症平均年齢は良性腫瘍が7-9歳、悪性腫瘍が9-11歳というデータがあります。

5.良性だと手術しなくてもいいですか?

走る子犬

手術前の確定診断はかなり難しいです。仮に良性だとすれば、転移や急速に進行する可能性は低いですが、良性でも大きくなってくることがあります。例えば数年後、大きくなったことによる皮膚の問題が起これば、良悪に関わらず手術を検討しなければなりません。その時には、現在より歳もとっていることになるので、手術リスクが上がっている可能性もあります。

6.手術以外に治療はありますか?

基本的には外科手術による切除が第一選択になります。転移が認められないケースでは切除で根治することが多いからです。術後、病理検査の結果、悪性腫瘍ということが確定診断されれば、抗がん剤治療を検討します。しかしながら、抗がん剤が転移を防いだり、再発をおさえたりするはっきりとした効果は実証されていません。この点については、飼い主様とよく相談したうえで決定していくことになります。また、施設や費用の問題はありますが放射線治療を検討する場合もあります。

7.高齢なので手術、全身麻酔が心配です。

乳腺腫瘍の手術だけでみれば、高齢の手術が多くなるわけですから、年齢のみで手術の可否を決めることはありません。手術前には血液検査、レントゲン検査等を行い、全身状態を把握します。また手術時も、鎮静薬から麻酔薬というように徐々に麻酔状態に移行します。もちろん、心拍数、呼吸数、血圧、体温等は機械とスタッフにより常時チェックしています。残念ながら全身麻酔の安全性は100%ではありませんが、100%に近づける体制、万が一に備える・見逃さない体制で手術に臨みます。

8.手術で根治すれば再発はないですか?

犬の乳頭は左右5個ずつ、計10個あります。その乳頭をつなぐように皮下に乳腺があります。切除した以外の部分に乳腺があれば、そこに新たにしこりができることがあります。様々なデータがありますが、新たにしこりができる確率は避妊していない場合では約60%と言われます。

9.どんな手術になりますか?

どの範囲で乳腺を切除するかで以下のような方法があります。範囲が小さいほうが手術時間は短いですが、残っている乳腺は多くなり、新たなしこりができる場所を残しているとも言えます。また、しこりが何カ所かある場合は方法を組み合わせることもあります。

乳腺手術

  • ①局所切除 腫瘍のみ切除
  • ②領域切除 前後でリンパ節支配が異なるため、しこりがある側を切除
  • ③片側切除 左または右のしこりがある側の乳腺をすべて切除
  • ④全切除   左右とも乳腺をすべて切除

10.乳腺腫瘍の手術の時に、避妊手術もしたほうがいいのですか?

現在も議論がなされ、明確な答えがない問題です。同時に避妊手術をするメリットを示します。

  • 乳腺腫瘍が良性だった場合、残っている乳腺での再発が抑えられる。
  • 卵巣、子宮の病気に今後かからない。

どちらも、ある程度将来の病気の予防ということになるので、長期生存が見込めないケースではこのメリットは無いといえます。また同時に避妊手術を行うと、手術時間は長くなってしまうので、麻酔時間を少しでも短くしたいような場合も、避妊手術は行わないことになります。

11.術後はどうなりますか?

数日の入院後、退院になります。退院時は傷口をなめないように術後服やエリザベスカラーを装着します。
術後10-14日で抜糸を行います。このころに病理検査の結果がでるので、それに合わせて、治療を決めていきます。良性や低悪性度の場合は数か月後の検診ということが多いです。転移の可能性が高い悪性腫瘍の場合は、先に述べたような抗がん剤や放射線治療について、個々のケースにあわせて御提案していきます。

乳腺腫瘍の一般論や現時点で報告のあるデータを元にまとめました。
新しいものがでてくればアップデートしていますし、個々のわんちゃんによって状況は様々です。
「○○ちゃんの場合は、、」と補足することも多いです。色々な要素があり、簡単には決められないと思います。
何かわからないこと、御不安なことがありましたら、どんなことでも構いませんので、
お気軽にお尋ねください。