慢性腎臓病③~アップデート~
こんにちは。
当院のコラムで僧房弁閉鎖不全症に次いでアクセスが多いのが慢性腎臓病です。
慢性腎臓病についても少しアップデートがあります。過去のコラムを読んでからお読みください。
①診断・ステージングについて
IRISガイドライン2019で少し変更がありました。SDMAの数値が変わっています。
犬も合わせて掲載しておきます。
(IRIS;international renal interest society; 国際獣医腎臓研究グループ)
いつものですが、、、ガイドラインはあくまで指針です。ねこちゃんの状態、総合診断を大切にしてください。
②食欲刺激剤の軟膏「Mirataz(ミラタズ)」を導入しました
とにかく「食べない!!」が問題になってしまう腎臓病。制吐剤や消化管運動改善薬やサプリメントを用いて、なんとか食べてもらうために苦心しています。その中で食欲刺激剤を用いることもあります。各種ありますが、最も効果がありそうなものは錠剤でした。使っていたのですが、苦みがあったり、「食べない猫に飲ませるって、、、」というジレンマがあったりしました。
それを解消してくれたのが「Mirataz(ミラタズ)」です。ジェル状の軟膏で、耳に塗って成分が吸収されるというものです。残念ながら国内販売がありません。とはいえ、人-飲ませるストレス、猫-飲ませられるストレスからの解放!!は、想像以上に良いですね~
③内服薬について
2017年春に「ラプロス」が発売されて、猫の腎臓病としては、主にフォルテコール、セミントラ、ラプロスの3剤(国内、動物用薬)となりました。
直近のことですが、セミントラが年内供給再開不可と通知がありました。コロナウイルス感染症の影響なので再開の目途は立てられないようです。当院の在庫もなくなってしまいました。
代替薬は人用薬のテルミサルタン錠か、ラプロスかフォルテコールに変更ということになります。
「液体」というのが選ぶ理由のケースも多かったとので、変更には工夫や苦労が伴うと思われます。。。ちなみに獣医療で、人用薬を使うことは日常的で、他にも多くの人用薬が使われています。
ラプロスは発売から3年が経ちました。ラプロスは、腎臓の血管を守り、血流を確保(栄養と酸素の確保)することと、炎症を抑え線維化を防ぐことで腎臓病の進行を抑えます。
フォルテコールやセミントラが、糸球体(尿を作る役割をもつ部分)をターゲットにしているのに対して、ラプロスは、もっとざっくり腎臓全体をターゲットにしている感じです。
ラプロスの効能・効果は、IRISステージ2~3の慢性腎臓病における 腎機能低下の抑制及び臨床症状の改善となっています。具体的には、「食欲が出て食べるようになった。」「体重が維持できるようになった。」というようなことが多いです。3年たって現場でのデータもまとまってきました。体重減少率や生存日数で他剤より良好な傾向があるようです。ある病院でのデータですが5か月以上の投薬継続率も他剤と変わらなかったそうです。
投与が1日2回なのと他剤よりやや高価なことはデメリットですが、慢性腎臓病のケアの中で「食べてくれる」というのは、これ以上ない支えになります。
④腎臓病治療薬への期待
なぜ猫が慢性腎臓病になってしまうのか?そのカギを握る物質が明らかになりました。
それがAIM (Apoptosis Inhibitor of Macrophage)というタンパク質です。今年の1月にネットニュースなどでは出ていたので御存知の方もおられるかもしれません。
AIMはゴミ、例えば死んだ細胞などにくっついて、「これは処理していいですよ」という目印のような役割をしています。AIMがくっつくとそれを目印にマクロファージという白血球の一種がやってきて、それを自らに取りこんで処理(貪食)します。
腎臓が悪くなると、尿細管にゴミがたまります。ヒトやマウスではこのゴミにAIMがくっついて、すぐに処理されるのに、猫ではAIMが働かないそうです。
なぜか?その理由までわかっているそうで、「AIM」と「AIMが待機するタンパク質」との結合が、猫ではヒトやマウスよりはるかに強いそうです。言うなれば、ゴミ収集車がセンターに待機していても、なかなか動いてくれない。というようなイメージですかね。
ということで、「AIMを薬として作ってしまおう」というのが背景です。
AIMは東京大学の医師が発見していて、最終目標がヒトへの応用になっています。つまったゴミを処理するという点で、アルツハイマーへの応用などが考えられているようです。さらには、例えば「特定のがん細胞にだけくっつくAIMが開発できれば、癌の治療薬としても使える!」というような発展も想定されているようです。記事の中には2022年までの商品化を目指すというような文言もありました。
近い将来、猫の慢性腎臓病の治療は画期的に変わるかもしれないですね。そしてその先にはヒトへの研究開発も。猫もヒトも健康に長生きできる未来が待っているのかなぁ。