マダニ予防とSFTSの正しい知識を!
- 2025年6月23日
- 犬,猫,その他の病気,ヘルスケア・健康診断
6月中旬ショッキングなニュースがありました。三重県でSFTSの猫を治療していた獣医師が亡くなったというものです。報道はそこまでされなかった印象がありますが、獣医療関係者に対しては、治療時の咬傷対策強化と体液(唾液、血液、尿)接触への注意喚起がありました。
また、6月23日には、茨城県で猫でのSFTS陽性が確認されたとの報道もありました。関東での確認は初めてとなります。
地域猫に接する方やTNRで捕獲の機会がある方も十分に注意してください。
2年前に書いたコラム「マダニ予防・対策」の冒頭にSFTSについて追記して再投稿します。
SFTSについて
・重症熱性血小板減少症候群 Severe fever with thrombocytopenia syndrome
・病原体はマダニが媒介するSFTSウイルス
・感染ルート:マダニの吸血、吸血をうけた動物の体液との接触
・キャンプや登山などの屋外活動でのマダニ付着対策が重要
・身近な感染ルートとしては散歩時の犬、外に出る猫、野良猫や地域猫があげられる
・致死率 ヒト:27% ネコ:60% イヌ:軽症経過や不顕性感染が多い?
・動物園のチーター、野生アナグマで死亡報告あり
・症状:元気消失、食欲不振、発熱、黄疸、ヒトでは倦怠感も多く報告あり
・血液検査での血小板減少、白血球減少
・ヒトでの潜伏期間は10-14日 → 感染の可能性から2週間は体調に注意
・ネコ:回復例では対症治療で7日程度で回復に向かう
・回復後、徐々にウイルスは消失し、感染リスクは軽減する
※マダニに吸血されていても決してつぶさないでください!
ウイルスが飛散するリスクがあります。
引っ張って取っても、皮膚に差し込まれたクチバシ部分が残ることがあります。病院・動物病院を受診しましょう。
マダニについて
マダニは山や河川敷、草むらや公園など、広く屋外に生息しています。日本ではキチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニ、シュルツエマダニなど数種類が知られています。分類上は昆虫とは違うグループになります。ちなみにノミは昆虫に分類されます。
幼ダニ→若ダニ→成ダニと吸血しながら成長していきます。春~秋にかけて活動が活発になります。人や動物に食いついた後、数日から長いものでは10日くらい吸血しているそうです。吸血時にバベシア症や日本紅斑熱などさまざまな病気を媒介するので、予防・駆除が重要というわけです。
マダニ駆除
マダニが媒介する病気を予防するためには、「マダニ自体を避ける」、「病気の原因であるウイルスなどを体に入れられないようにする=マダニに吸血させない」 という方法になります。
ちなみに人だと全力で「マダニ自体を避ける」です。
ここまでの2つの図は、厚生労働省のダニ媒介感染症のwebページからもってきました。
他にもたくさんイラストがあってわかりやすいのでぜひ一度のぞいてみてください。
忌避剤の効果についても書いてありました。
過信しないようにとのことです。
動物では肌の露出を避けることは難しいので、「草むらなどを避けること」と「駆除薬を使う」の2本柱で予防するのが重要かと思います。市販では動物用の忌避剤もあるようですが、補助的な役割になるかと思います。また、目への刺激性などもあるようなので御使用の際はお気をつけください。
代表的な2つの駆除薬成分をあげます。
①フィプロニル系
商品名:フロントライン、マイフリーガード、フィプロスポット、ブロードラインなど
タイプ:スポット剤(月1回背中につける)
体に付けたあと、血中には吸収されず、皮脂腺に蓄積され、徐々に放出されます。体に付着したマダニが、移動し、吸血する数日間のうちに、お薬に接触することで、駆除します。48時間以内の駆除という製品が多いです。決してマダニがつかなくなる薬ではありません。
2週間に1度程度のシャンプーであれば問題ないとされていますが、お薬を付ける前後2日間ずつはシャンプー不可です。効果は1か月ですが、付け薬という性質上、水濡れや汚れとは相性が悪くなってしまいます。1980年代に開発されたお薬で、現在はゴキブリやスズメバチの殺虫剤、農薬・園芸用殺虫剤としても使われています。歴史が長い薬なので、耐性マダニの存在が指摘されていたり、新薬が開発されたりしています。一部の国では使用禁止・終了し、役割を終えています。
②イソオキサゾリン系
商品名:シンパリカ、ネクスガード、クレデリオなど
タイプ:おやつタイプ(月1回食べさせる) ※猫はスポット剤
ここ数年で主力に変わりつつあるお薬です。動物用に開発された成分です。食べたお薬が胃腸から血中に吸収されて効果がでます。お薬が血中に入るので、体が水にぬれたり汚れたりしても効果にちがいはありません。効果は1か月間持続します。「マダニに吸血されて効く」という点に関して、不安や心配があるかと思いますが、メーカーからきちんと説明がありました。
・マダニが駆除されるまでの時間は早い製品で8時間
マダニが吸血するとすぐにウイルスが体にはいってくるわけではないということがわかっています。他のマダニ媒介疾患であるライム病やバベシア症の病原体は、マダニが吸血し始めて24~48時間後から体に入ってくるそうです。SFTSウイルスについてはまだはっきりしないようですが、マダニの唾液にウイルスが含まれるため、これらよりは比較的早期に侵入しうると推測されているようです。いずれにしても吸血から駆除がまで早いほうがいいことにちがいはありません。
・マダニが駆除されるまでの吸血量は従来薬の3分の1
マダニが駆除されるまでに吸う血液の量は、従来の血中吸収タイプのお薬の3分の1になっているそうです。少ない吸血で早く効くということですね!ちなみにノミでは10分の1とのことでした。
「血、吸われてだいじょうぶ?」という心配よりも、はやくちゃんと効く安心感につながりませんか?
いつ予防するか?
マダニが活動している時期には予防が推奨されます。当院(千葉県)では、3月から10月とお話ししています。
マダニは野生動物にも寄生します。タヌキやハクビシンは都会の畑などでも目撃されていますよね。
SFTSをとりあげたテレビ番組で、マダニの捕獲方法をみたことがあります。なんと、河川敷の草むらで白いシーツを何回か振るだけです。それだけでマダニがシーツにくっついていました。
お散歩中のわんちゃんが、ちょっと草むらに、、、でもマダニが寄生することは十分ありえます。
予防するにこしたことはないですが、各種予防に追加して、「マダニの予防まで大変!」と思った飼い主さんもおられるのではないでしょうか(;^_^A ただ、わざわざ(?)「新しくマダニ予防を始めなきゃ!」は少ないかと思われます。
と言うのも、近年のフィラリア予防薬は、フィラリア・マダニ・ノミ・おなかの虫を駆除、予防できるオールインワンタイプが主流になっているからです。
ですので、例えば、こんな風にフィラリア予防が始まる前だけ、マダニ駆除薬を使えば、予防は完璧です!
以上、マダニについて書きました。予防についても、飼い主さんのお考えや、生活環境にあわせて、御提案していますのでお気軽に御相談ください。