猫の慢性腎臓病②~治療編~|ひがしっぽ動物病院|千葉県鎌ケ谷市にある動物病院

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コラム

猫の慢性腎臓病②~治療編~|ひがしっぽ動物病院|千葉県鎌ケ谷市にある動物病院

猫の慢性腎臓病②~治療編~

猫の慢性腎臓病②~治療編~01慢性腎臓病のケアについてです。書いていたらかなりのボリュームになってしまいました。
最後にまとめを書いたので、そこをまず読んでもらってもかまいません。

また、今回は「数値」は意図的に記載していません。
腎臓病の全体の概念として、ざーーっとわかっていただければGoodです。

まず、残念ながら慢性腎臓病は完治しません。これはヒトも同じようです。 さらに、獣医療では血液透析や腎移植が施設、費用、頻度などの面からあまり現実的ではありません。

なので、治療の目的は次の2つです。

  • 残った腎機能をなるべく維持すること=腎臓の負担を下げる
  • 腎臓病による症状をケアして、ねこちゃんの生活の質を保つこと

腎臓病では様々な症状があらわれます。「腎機能が低下すると起こる症状」と「それに対するケア」という形で書いていきます。

 

脱水

腎臓の濾過性能が落ちるので、必要なものも捨ててしまいます。老廃物と一緒に水分も捨てられてしまいます。なので、腎臓病のねこちゃんでは多飲多尿がよく見られます。

飲水量が増えるようにしたいので、水飲み場・器の数を増やしたり、器の素材変えてどれを使うのか見たりします。一般には陶器やガラスの方がプラスチックやステンレスより好まれます。また皮下点滴を行うことも一般的です。ウェットフードを試すのも良いです。

 

食欲低下

血中のBUN、CREが高くなると、胃炎や腸炎や口内炎が現れやすくなり、食欲低下につながります。摂食量の低下は飲水量の低下であり、脱水も助長します。また、食べ物から摂取すべきカリウムなどのミネラル分も不足します。

カリウムが少なくなると筋肉機能も低下するので、あまり動かなくなったり、首を上げなくなったりします。食べに行く・食べるという行動にますますつながらなくなります。
各社から出ている腎臓病処方食は嗜好性をあげる工夫がしてあったり、ミネラル分の調整がしてあったりします。

 

高リン血症

猫の慢性腎臓病②~治療編~02血中のリン(P)濃度が上がると、腎臓病の進行を早めることがわかっています。高リン血症では食欲不振や吐き気の症状がみられることがあります。 高リン血症が増悪すると、血中で多くなったリンはカルシウムと結合して血管や腎臓で石灰化を起こします。

さらに増悪すると血中カルシウムの低下を受けて、ホルモンの働きにより、骨から血中にカルシウムが動員されるので、骨がもろくなります。また、血中カルシウムを上げる働きのあるビタミンDは腎臓で活性化される必要があるので、腎臓病のねこちゃんだと、高リン血症とビタミンD活性化低下のダブルで低カルシウム血症におちいりやすいということになります。

ここまでの代謝変化はそう早い段階では起こらないようですが、注意は必要です。 したがって、腎臓病処方食はリン制限がその特徴です。また、リン吸着剤を用いることもあります。蛇足ですが、炭素系吸着剤(活性炭製剤)はリンの吸着剤ではありません。蛋白質の代謝過程で生成される尿毒症(※)物質の元(インドールなど)を吸着しています。
(※) 尿毒症:腎機能の低下により、本来なら尿に排泄される物質が、体内からうまく排泄されないことに起因する症候群の総称。

血中リン、カルシウムは血液検査で測定できますから、モニタリングしながらケアしていくことになります。

※カリウムやリンやカルシウムなどを調整する仕組みは非常に複雑にそして上手にできています。少し変動があってもそれを補うシステムがあります。病気が重症化するとそのシステムが破綻してしまいます。慢性腎臓病が重症化してくると高カルシウム血症が現れることがあります。ちなみに、ヒト医療では「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常」(CKD-MBD)という病態としてとらえられています。

 

高血圧、蛋白尿

腎臓の機能が落ちてくると身体はそれを補おうとします。血圧をあげて腎臓自体への血流を増やします。ただし、上がりすぎると、心臓や網膜などに悪影響がでます。また、尿中に蛋白が押し出されることになり、これは腎臓病の悪化要因です。

血圧を下げる、あるいは血管を拡張する薬を使って血圧をコントロールすることと、食事中の蛋白質量の制限のため処方食に切り替えたりします。蛋白質は尿毒症物質の元にもなるので、適度な制限は理にかなっています。

 

貧血

腎臓ではエリスロポエチンという造血ホルモンを作っています。腎臓病が進行すると、この機能も落ちてくるので、貧血になりやすいです。また摂食量の低下から鉄分が不足しやすいことも貧血の要因になります。造血ホルモン剤を注射したり、鉄剤を投与したりします。

 

猫の慢性腎臓病②~治療編~03

ここまで読んでいただいて、食餌の質、処方食の重要性がわかっていただけるかと思いますが、ちょっと御注意を。慢性腎臓病のねこちゃんはすでに食欲が落ちていて、摂食量が少ない場合があります。

これはすでに、リンや蛋白が制限されている状態です。処方食の嗜好性は、良くなっているとはいえ、一般食より食いつきが落ちます。
食べない処方食は意味がないです。食べることは生きることであり、水分摂取でもあります。

このことは意外に見失いがちです。腎臓病のねこちゃんを栄養飢餓に追い込まないようにすることにいつも注意が必要です。
最後に。腎臓の働きや腎臓病の病態を知ることはとても重要ですが、もっと重要なのは、○○さんちの□□ちゃんが、今どういう状態なのかを知るということです。いつもの状態を知っている飼い主さんと病気のことを知っている獣医師とで、協力しましょう!

以上をまとめます。

  • 食べる量、飲む量を確保することが最優先。食べることは生きること!
  • しっかり食べる場合は処方食でリン制限、蛋白制限。
  • 薬は状態に合わせて。飲める場合は、降圧薬や血管拡張薬、リン吸着剤、活性炭など。
  • 動物病院で定期的なモニタリングを。(検査数値だけにとらわれないこと)

 

おまけ ~処方食を食べてもらうために~

  • 今までのフードに混ぜるか、同じ器内で新旧2種類を分けていれる。
  • 切り替えはゆっくり。最近は3~4週間かけてとも言われます。
  • 不調の時にスタートしない。強制給餌は慎重に。(処方食への嫌悪を避ける。)
  • 新鮮なフードにする。小分けタイプのもの。大袋の購入を避ける。
  • 少し温める。ドライフードも数秒チンすると風味が立つようです。
  • 風味付けとして、だしパックなどをフードの上に置き、ラップをかけて数時間置いてから与える。