猫の胆管炎-黄疸-肝リピドーシス
今回は、特にねこちゃんに重要な「胆管炎」「黄疸」「肝リピドーシス」という肝臓系の病気3つをまとめて説明します。それぞれが密接にかかわりあっているのでまとめての説明にしました。
前半でまずメインの胆管炎について説明し、後半で症状や治療について3つを関連させながら説明します。
複数の臓器がかかわっているのでまずそれぞれの位置関係を示しておきます。
猫の胆管・膵管の開口部の模式図
「ペット保険のFPC 猫の病気事典 胆管炎・胆管肝炎」から許可を得て掲載
胆管とは?
胆管は胆汁という消化液が流れていく管です。胆汁は肝臓で作られます。
肝臓の細胞で作られた胆汁が小さい胆管を通って、だんだん合流し、袋に集まります。
この袋が胆嚢です。胆嚢に貯められた胆汁は総胆管を通って腸に分泌されます。
つまり胆管は、肝臓-胆嚢-腸を通って胆汁を運んでいく川のようなものです。
肝臓の中では小さな川(肝内胆管)であり、貯留池(胆嚢)に一旦たまり、大きな川(総胆管)となって海(腸)にそそぐというイメージです。
ちなみに膵臓は膵管によって膵液を腸に分泌しています。猫では腸の手前で胆管と膵管が合流してから腸に開口します。
胆管炎とは?
胆管炎は胆管の炎症です。猫の肝臓・胆管・胆嚢疾患では最も発生が多いと言われています。これまでは「胆管肝炎」という呼び名も一般に使われていました。
肝臓内の小さい胆管で炎症が起こるとまわりの肝臓にも炎症が広がるのは想像しやすいかと思います。これが大きい胆管で起こったりそこまで広がっていったりすると、管でつながっている膵臓や腸でも炎症が起こります。
胆管炎-膵炎-腸炎は合併することが多いので「三臓器炎」と総称されることもあります。
なぜ炎症がおこるのか
- 細菌感染により好中球(白血球の一種)が集まって炎症が起こる → 好中球性胆管炎
- 免疫の異常でリンパ球(白血球の一種)が集まって炎症が起こる → リンパ球性胆管炎
- 胆管癌や胆石などで炎症が起こる
- 胆管の閉塞で炎症が起こる
- 膵炎や腸炎や肝リピドーシスから胆管炎を合併
※複数の要因が重なっている場合も多いと考えられています。
胆管と胆管炎について書きました。ちょっと難しいですよね?
いろいろな臓器がつながっていて、どこが病気になっても、複雑に影響しあって、、、レントゲンやエコーで大元の原因がわかることもあれば、全身麻酔をかけて生検・組織検査しなければ診断がつけられない場合もあります。確定診断がつけられないことも珍しくありません。
黄疸や肝リピドーシスを起こしていて状態が悪いことも多いので、検査や手術の全身麻酔のリスクは高くなります。対症治療を優先せざるをえないことも一般的です。そして珍しい病気というわけでもありません。なかなか厄介な病気です。
後半は、症状と治療について書いていきます。
症状
胆管炎に特有の症状はありません。元気消失、食欲低下、体重減少、吐き気や嘔吐などがよくみられます。
血液検査では肝臓系の数値が高くなっています。レントゲンやエコー検査で腫瘍や胆石がみつかることもあります。
慢性化・重症化してくると黄疸や肝リピドーシスが起こります。
黄疸
胆管に炎症がおこると、胆管が腫れて、胆汁が通るスペースが狭くなります。いよいよ詰まってしまうと胆汁が管外に染み出て、血液に吸収されます。
胆汁に含まれているビリルビンという色素成分が皮膚や目(結膜)を黄色くみせます。これが黄疸(閉塞性黄疸)です。尿が濃いオレンジ色になることも多いです。
また後述する肝リピドーシスのように肝機能障害が起こることでも黄疸(肝性黄疸)はおこります。肝臓自体のがんなども黄疸の原因になります。黄疸は赤血球が壊されることでも起こります(溶血性黄疸)。この場合は貧血を合併していることが多いです。
肝リピドーシス
肝リピドーシスは食欲不振が起こるどんな病気からも発症する肝機能障害です。
猫はエネルギー摂取量が減ると体脂肪を分解してエネルギー源にします。この過程で肝臓に過剰な脂肪酸が蓄積してしまい肝機能が低下します。脂肪肝のような状態だと言えます。
肝リピドーシスになってしまうと食欲低下はさらに悪化します。したがって食欲不振がおこる全ての病気は肝リピドーシスの原因になります。肝リピドーシスから黄疸がおこることもあります。
つまり・・・
受診したねこちゃんはじーーっとうずくまっている。時々気持ち悪そうに口をくちゃくちゃさせたりよだれを垂らしたりしている。なんとなく白目が黄色っぽい。
飼い主さんに話を聞いてみると、数日前から食欲が落ちていて、昨日はほとんど食べていないかもとのこと。血液検査をするとALTやALPなどの肝臓の数値が高く、TBILも高い。
・・・というような感じです。日常的にどんな獣医師も遭遇する状況です。
治療
すべての病態が複雑に絡み合っていると考えられるため、治療も状態に合わせて組み合わされます。
点滴、制吐剤、利胆剤、肝庇護剤、食欲刺激剤などを使います。入院治療も検討されます。
胆管炎
- 腫瘍や胆石がある場合 → 外科を検討
- 好中球性胆管炎 → 抗生物質
- リンパ球性胆管炎 → ステロイドなどの免疫抑制剤
黄疸
- 原因疾患(胆管炎や肝リピドーシスなど)の治療
肝リピドーシス
- 十分な栄養補給
猫自身は食欲不振なので補助が必要です。
好きなフードを増やしたり、少し温めたりして食事を促します。
残念ながらそれだけでは不十分なことが多いので、ペースト食や流動食を、シリンジを使って口にいれたり、チューブを設置してそこから入れたりします。チューブには経鼻チューブ、食道チューブ、胃瘻チューブなどがあります。
また、栄養補給開始後の方がむしろよだれや嘔吐などの症状がひどくなることがあります。
リフィーディング現象と呼ばれる代謝異常がみられることもあります(低カリウム血症、低リン血症、貧血)。お薬を使って症状をできるだけケアしながら、治療を継続し、肝臓が良くなるのを待ちます。
予後(病気の経過や治療反応)
確定診断がついた場合のデータでは、好中球性胆管炎は予後がよく、リンパ球性胆管炎は軽快と悪化を繰り返すと言われています。治療から数日で黄疸の改善や肝臓の数値の低下が認められた場合は重症化するケースは少ないです。腫瘍や胆石であれば外科や術後管理をひとつずつ乗り越えていくことになります。
ただし、繰り返しになりますが、実際は肝リピドーシスを発症している場合、膵炎や腸炎を併発している場合など、病態は複雑です。胆管炎の治療経過というよりも、それぞれの状態に応じた対症治療への反応が乏しい場合は予後不良ということになります。
食欲回復や数値改善が認められるまで時間がかかることも多く、入院治療→通院+自宅でのケア→治療終了と治療は長期にわたることも珍しくありません。
いかがでしたか?
検査や診断や治療、いずれにも悩まされる病気ですが、入院時に沈鬱だったねこちゃんが、スタッフ一同、知識も技術も想像力も総動員して治療にあたって、元気に退院できたときは獣医師冥利に尽きる想いです。
病態や治療にはいまだ不明な点も多く、説明も分かりにくい部分が多々あったかもしれません。冒頭の図の掲載元である「ペット保険のFPC >猫の病気事典> 胆管炎・胆管肝炎」も参考にしてみてください。